【経済安全保障 基礎知識編 Vol.2】「機微技術」とは?
2022年8月2日【経済安全保障 基礎知識編 Vol.3】「OSINT」とは?
2022年8月23日7月12日に開催されたプライベートカンファレンス「FRONTEO AI Innovation Forum 2022」においては、企業・医療機関・官公庁等を中心に1,600人以上の関係者が参加し、様々な分野での社会実装に不可欠となるAIの研究結果や活用の実際に焦点が当てられました。この中でも特に注目度の高かった経済安全保障セッションにおいては、鈴木 一人 東京大学 公共政策大学院 教授が、経済安全保障への対応が日本においていよいよ不可避となった背景と、今後政府や企業に求められるものについて解説を行いました。FRONTEO山本麻理取締役からは、経済安全保障対応に資するツールを企業はどのように役立てるべきか、また最近追加されたばかりの新機能のメリットがどういったものであるかについて紹介しました。
「政経分離」から「政経融合」への変化に伴い、貿易や相互依存が「武器化」
昨今のエコノミック・ステイトクラフトの発動が、世界各国の企業活動をかつてないほど大きく揺るがしていますが、こういった状況が生まれた歴史的背景について鈴木教授はまず解説しました。第二次世界大戦後、私たち日本人は当たり前のように「保護主義ではなく自由貿易によって世界がつながる」ことを是とする西側諸国の価値観を受け入れてきました。冷戦後は、中露もWTOに加入し、西側のものであった自由貿易がグローバルなものに塗り替えられていきました。
そこで生まれた大きな課題は、自由貿易において「同じ規範も価値観も共有しない」メンバー国家の登場です。「世界の工場」である中国、「世界のガソリンスタンド」であるロシアは世界経済の中に組み込まれるほど、経済をテコにして国家間関係を整備しようとする動きが生まれてきました。国家同士の政治的関係が冷えていても経済取引は成立している「政経分離」「政冷経熱」の時代は終焉を告げ、政治目的に経済を利用する「政経融合」の時代が到来しました。これが意味するのは、貿易と相互依存の「武器化」です。これについては、日本が中国に依存しきりであるレアアースがわかりやすい例でしょう。この場合の中国は、相手国である日本が下手に出るほかない状況、つまり「脆弱性」を逆手にとって政治的意思を強制する、エコノミック・ステイトクラフトを発動しやすい立場にあるといえます。「話し合いで解決できない国」とは、単に経済的な問題だけでなく、武力対立につながる可能性さえあります。
経済安全保障が目指すのは「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」
では貿易と相互依存の「武器化」のリスクを低減させるにはどのようにすればよいのでしょうか?そのカギとなるのが経済安全保障=経済的手段による国益を確保すること、そして他国からの圧迫に対して対抗しうる能力を持つことであると鈴木教授は解説します。
経済安全保障が目指すものは大きく2つです。1つは「戦略的自律性」、特に重要なもの、戦略的な物品は他国に依存しすぎずできるだけ自律的に生産するというアプローチです。もちろんすべてを国産にすることは不可能ですから、信頼のおける友好国ベンダーに生産を依頼すること(=フレンドショアリング)も重要です。中露に依存してきた企業がベンダーを他国に切り替えるという方策は、それはすなわち経済的合理性を犠牲にして経済安全保障上の合理性を高めることにつながります。コスト増の痛手を引き受けて経済安全保障を優先させることは企業にとって苦渋の選択となりますが、この2つの合理性においてどのように折り合いをつけていくかが、重要なポイントになっていくでしょう。また経済安全保障はそもそも政府が国家の安全の担保という直接的利益に結び付きますが、企業にとってはあくまで間接的利益にすぎません。また、利益追求集団である企業にとっての経済的合理性 VS 政府にとっての国家運営上の合理性という二つの相反する合理性にどう折り合いをつけるかも重要です。政府にとっての合理性を推進するためには、経済安全保障推進法案が果たす役割は大きいといえるでしょう。
経済安全保障が目指すもう一つの姿は「戦略的不可欠性」、つまり代替が難しい資源や技術を有しているために、対立したり排除する関係になりたくないと他国に認識させるアプローチです。日本は中国におけるレアアースのような資源を持っていません。その場合は、他国の追随を許さない高度な技術を確保し、唯一無二性を高めるほかないでしょう。「日本との対立はマイナスだ」と思わせる抑止力につなげることが重要です。
制裁企業とのつながりを「人海戦術」のみで発見することは不可能
FRONTEOの山本は、不確実性の高い地政学リスクに対峙する企業の現状と、それを解決する最新機能を搭載したAIソリューションについて紹介しました。経済安全保障推進法案の4本柱の一つに、重要な物資の安定供給化をねらいとした「サプライチェーン強靭化」が定められましたが、各企業において、自社の1次サプライヤー以降の調達先を可視化し、どの程度制裁企業やチョークポイント(依存度の高い隠れた供給先)と繋がりを持っているかを紐解き、代替調達先を検討することは容易ではありません。FRONTEOが昨今問い合わせをいただく企業においては、特に製造系を中心に、担当者や調査会社が調査票やデスクトップリサーチを通じて行う「人海戦術」調査には限界があり、海外サプライヤー(中国企業)に対して正確な調査を行うこと、膨大なグローバルサプライチェーンの全体像を把握することはほぼ不可能だと判明しています。
FRONTEOが開発した、ネットワーク解析に特化したAIエンジン「KIBIT」は、こうした現場環境を踏まえ、正確性・網羅性の高い調査解析を行うために開発されました。このたびのアップデートにおいては、当社のサプライチェーンネットワーク解析ソリューション「KIBIT Seizu Analysis(キビットセイズアナリシス)」上のオープンソースデータ調査対象データの範囲を、企業側が保有するサプライチェーンデータと統合することで、自社のサプライチェーンの外側のリスクも解析することが可能になりました。データ統合を支える機能としては ①特定の企業や取引情報を個別検索条件として追加 ②経路上の特定企業の代替候補先を提案 ③必要度の低い情報を削除 の3点が新しく加わりました。イベント当日は、以下のようなデモ画面でのリサーチを紹介しました。
米国TESLA社のサプライチェーンについて、FRONTEOが手元にあるデータを元に新機能を使って解説しました。
- 経済をテコに政治を動かす駆け引きは今後もさらに続くとみて間違いない。「人権」の価値をどのように担保するかは国際政治の決定的要因であり続けるだろう。
- 政府として経済安全保障を推進する動きはあくまで国家にとってのメリットが第一義。日本企業がビジネスチャンスを失うリスクとのバランスを取ること、政府と企業の目線合わせがこれからさらに重要になってくる。
- 経済安全保障ソリューションの活用は企業にとって不可欠な時代に。AIの活用は「守り」だけでなく、取引先開拓や企業買収の際の企業選択においても大きなベネフィットがある。