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2023年8月1日2022年5月に経済安全保障推進法が公布され、同年8月の施行から1年という時間が流れました。経済安全保障という言葉を目にする機会も格段に増え、新時代の新たなリスクとの向き合い方に、多くの企業経営者、各セクションの担当者が悩み、考えた日々であったと思われます。
経済安全保障対策は今後継続的に対応を進め、企業活動の一環に織り込まれるようになっていくものですが、経済安全保障推進法の公布、施行から1年の節目に、経済安全保障対策において、日本企業が今、どのような状況にあり、どのような変化があったのかを確認するためにアンケート調査を行いました。本アンケートは、定期開催している経済安全保障勉強会を含むFRONTEO主催の各種勉強会への参加者およびご案内先に対し実施したものです。
今回の経済安全保障ブログでは、そのアンケート調査の結果を公開いたします。
<アンケート結果サマリー>
- 経済安全保障推進法の公布・施行は8割を超える回答者が認知していた。
- 日本企業において経済安全保障対策を推進する上で課題となっているのは、経済安全保障に関する理解や知見に関することが高い割合を占めている。情報整理や対策に関する情報開示など、具体的な活動に関する課題認識は回答全体でも製造業に絞った場合でも1割に満たない結果となった。
- 経済安全保障推進法公布以降、経済安全保障対策に取り組んだ企業が増えているが、製造業と非製造業を比較すると、製造業のほうがこの1年で取り組み企業がより増えていることがわかった。
- 取り組んでいる具体的な対策については、選択肢として挙がったすべての項目において製造業が経済安全保障推進法公布前から取り組んでいる割合が非製造業と比較して高く、製造業における対策が他業種よりも先んじていることがわかった。
- 取り組んでいる具体的な対策について、非製造業では経済安全保障推進法公布後に開始されている項目において製造業より取り組み割合が高く、経済安全推進法の公布・施行は非製造業においても対策推進のきっかけとなっていることが推察される。
- 全体の約2割が経済安全保障に関連する事柄で事業上の影響があったと回答し、「物流網の分断」や「調達困難な物資」、「サプライチェーン上での懸念組織との繋がり」など、具体的対策が必要となる事柄の発生が確認できた。
- セキュリティ・クリアランス制度や特許非公開など、国家や国民の安全と、重要情報・重要技術を守る制度に関しては影響を受けた事例は多くないものの、制度が求められる具体的事案の発生が確認できた。
<アンケート結果詳細>
① 業種と企業規模
今回のアンケートには、130人から回答を得て、そのうち日本企業にお勤めの121人の方を対象に詳細な質問を実施しました。回答者の業種は多岐にわたるものの、約5割が製造業に携わる方でした。本調査は、FRONTEO主催の「経済安全保障勉強会」等にご参加・ご関心をいただいている日本企業所属の方に対して行ったため、サプライチェーンマネジメント等に関心の高い製造業の方が多くなりました。
企業規模については、従業員数10,000人以上の企業が4割を超えました。また、売上高は1兆円を超える企業が約3割、1000億円を超える売上高でした。
② 経済安全保障推進法に関する認知
2022年5月に公布され、同年8月に施行された経済安全保障推進法について「知っている」と回答した人は8割を越えました。一方で、同法の公布・施行について認知がない人も1割を超えて存在しています。
③ 経済安全保障対策を推進する上での課題
経済安全保障対策を社内で進める上での課題については、「経済安全保障対策の重要性の社内浸透」や、「法律や制度の理解」、「社内の専門知識不足」など、経済安全保障に関する理解や知見に関する項目に多くのポイントが集まり、「自社情報の整理」や、「対策ソリューションの選択」、「外部への進捗度の説明」などの具体的活動への課題が感じられている割合は低いという結果となりました。
製造業と非製造業に分解した場合も同様の結果となり、多くの企業では経済安全保障対策のスタートラインにあると言えそうです。
④ 経済安全保障対策の進捗と変化
経済安全保障対策の進捗について、経済安全保障推進法の公布前後での対策の有無と進捗の程度を確認しました。全体また、製造業と非製造業のいずれでも法律公布前から比較すると、公布後に取り組みが行われている企業が増えていることがわかりました。
製造業と非製造業で分解して比較すると、製造業のほうが公布前から取り取り組みを開始している企業の割合が高かったことに加え、公布後の取り組み企業の割合も12.1ポイント増となり、非製造業では5.5ポイント増であることから比較しても、製造業における経済安全保障対策の取り組みは他業種に先んじていることがわかります。
他方、経済安全保障対策が行われてはいるものの、進捗が十分であるという回答は全体では2割程度、対策がより進んでいる傾向にある製造業においても3割を下回っています。
進捗が不十分という回答が多かったのは、前項の「経済安全保障対策を進める上での課題」でも示されたように、現状では理解や知見の獲得の段階にある企業が多い傾向にあり、具体性のある対策や、平時の企業活動に組み込まれている状態に至っている企業はまだ多くはないという状況が反映された結果であると考えられます。
進捗が不十分という回答が多くなったのは、前問の経済安全保障対策を進める上での課題でも明らかとなったように、現状では理解や知見の獲得の段階にある企業が多い傾向にあり、多くの企業で具体性のある対策や、平時の企業活動に組み込まれている状態に至っている企業はまだ多くはないという状況が反映された結果であると考えられます。
⑤ 経済安全保障対策の内容
経済安全保障対策に取り組んでいると回答した人の所属先企業で、実際にどのような対策に着手しているのか、経済安全保障推進法公布前に着手していたものと、公布後に着手したものに分けて確認しました。
製造業と非製造業を比較すると、全ての項目で製造業のほうが公布前に着手していた割合が高いことがわかりました。
また、公布後に着手した項目については、「輸出入における社内規定等の改定」および「サプライチェーンの広範囲な確認」等の製造業で特徴的な項目以外では、非製造業において割合が高くなる傾向にあります。ここでも、製造業では経済安全保障対策が早くから始まっていたことがわかります。非製造業では、多くの項目で経済安全保障推進法の公布後に対策に着手した割合が製造業よりも高くなり、経済安全保障推進法の公布・施行は、非製造業にとっても対策進捗の契機となっていることが推察されます。
⑥ 経済安全保障に関連する事業上の課題となるような影響
「経済安全保障に関連する事業上の課題となるような影響が出ているか」の質問では、全体では約2割の回答者が「影響有」と回答しました。製造業のほうが非製造業より約10ポイント「影響有」と回答した割合が高く、また非製造業では「影響無」という回答が約6割を占めました。
影響を受けた具体的な内容としては、「調達先や販売先に制裁リストに掲載されている等の懸念組織があった」や、「調達に困難を伴う物資があった」、「情報保護・技術保護の観点から共同研究を中止・中断した」、「物流網の分断があった」などが挙がり、業種を問わず事業上の課題となる影響を受けていることが明らかになりました。
⑦ セキュリティ・クリアランスの必要性
「過去3年間で、お勤め先において日本のセキュリティ・クリアランスの必要性を感じるようなできごとがあったか」の質問については、「あった」との回答は1割に満たない数でした。
「あった」と回答した人が挙げた具体的な事例は、「国際的な研究発表会や会議に参加できなかった」や、「海外企業・海外研究機関との共同研究が中断した」など、日本企業の技術的プレゼンスがグローバルレベルで低下しかねない内容が挙がりました。企業の中でセキュリティ・クリアランスが制度化されていないことによる影響を受ける部門は多くはありませんが、懸念されている事項が実際に発生していることが判明しました。
⑧ 特許非開示の必要性
経済安全保障推進法は4つの施策の一つとして「特許出願の非開示に関する制度」を掲げており、公布から2年以内に同制度が施行される予定です。
今回のアンケートでは、「過去3年間で特許非開示の必要性を感じた経験があるか」という質問に対し、「あった」という回答は1割に満たない結果でした。しかしながら、その事例としては「軍事転用の可能性がある発明があった」など、国家安全に関わるような発明で、その技術や開発者の特許法上の権利を守る必要がある、経済安全保障推進法が想定するような事案があることが明らかになりました。
本アンケート調査にご協力いただきました皆さまに、改めて御礼を申し上げます。今回のアンケートを通じ、日本企業の経済安全保障対策が進みつつあることが確認できたと同時に、リスクやチャンスの把握という具体的対策へ足を進めている企業はまだ多くないことも判明しました。
FRONTEOは、経済安全保障対策に特化したAIソリューションKIBIT Seizu Analysisの提供を通じて、経済安全保障上のリスクとチャンスを可視化し、日本企業が戦略的かつ迅速な意思決定を行うための支援に努めてきました。今回の調査結果を受け、経済安全保障対策の推進上の課題や、課題と向き合いながら対策を進めようとする企業の姿が浮き彫りになりました。FRONTEOは、今後も最新のインテリジェンスを活用し、経済安全保障対策を検討・推進する企業の強力なパートナーとなることを目指してまいります。