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2023年6月13日FRONTEOは、定期開催している経済安全保障勉強会の参加者およびご案内先に対し、経済安全保障に関する課題感や、取り組みの状況、台湾有事へ備え、事業における影響についてアンケートを実施しました(実施時期:2023年1月)。
今回はその結果をご紹介します。なお、ご回答者の所属先には企業以外も含まれますが、本稿では便宜上、「企業」と記載しています。
<アンケート結果サマリー>
- 経済安全保障に関する取り組み状況には企業ごとに濃淡があり、専門組織があるなど具体的対策が進んでいる企業が約4割、検討段階は約3割、未対応の企業は約2割だった。ただし、未対応の企業においても対策の必要を感じていることが判明。
- 安全保障に関する対策について、約5割の企業がサプライチェーンの把握が課題であると感じており、そのほか、技術流出や社内の体制構築にも課題を感じている。
- 台湾有事への備えは、有事下の事業継続判断にすでに着手している企業が4割を超えており、サプライチェーンの代替先の検討や、機密情報の流出防止対策への関心が高い。
- 技術流出における課題として、人材採用や人材流出を挙げた企業が5割以上に上り、産業スパイに関する課題も含めると7割を超える企業が人的な領域で課題を感じている。
- 経済安全保障に関する対策でAIに対する期待としては、サプライチェーンに関連する対応に特に関心が高い。
なお、今回のアンケートのご回答者のうち約6割が製造業に携わる方々でした。アンケート結果詳細では、全体の結果に加え、製造業における回答を抽出してご紹介します。
<アンケート結果詳細>
①業種と企業規模
今回のアンケートには、94人にご回答をいただきました。回答者の業種は多岐にわたりますが、約6割が製造業に携わる方であり、多方面にサプライチェーンが広がる製造業において、経済安全保障への関心が特に高い状況であることがわかります。
また、企業規模を売上高から見ると、1兆円以上の企業が約3割を占め、1000億円以上は6割と超えています。
②経済安全保障の取り組み状況
経済安全保障の取り組み状況については、回答者のうち約半数の企業は、すでに専門部署の設置やプロジェクト発足など、何らかの取り組みを行っていました。一方で、調査・準備段階とした企業は約3割、未対応とした企業が約2割であり、取り組み状況には差が見られました。
製造業のみの回答では、全体と比較すると「未対応」が5ポイント以上少なく、また「部署内に対策機能がある」「専門部署がある」などの具体的な進捗状況を示す回答が多く見られました。製造業における経済安全保障の取り組みが他業種より先んじた状況にあることが読み取れます。
③経済安全保障に関する取り組みにおける課題
経済安全保障に関する取り組みを進める上で課題を感じている項目については、「サプライチェーンの把握・強靭化」とした回答が最多でした。特に製造業では、この回答が全体より10ポイント以上多く、サプライチェーンがより広範囲にわたり、またその数も膨大となる業界において、この課題が占めるウェイトの大きさが表れています。
また、「特になし」という回答は極めて少なく、いずれの企業においても経済安全保障においてさまざまな課題を持っていることが読み取れます。
④日本政府に期待すること
日本政府に支援してほしいこととしては、「データの収集・提供」とした回答が最多でした。グローバルな最新動向を正確かつタイムリーに収集することは、単独の企業には困難であることが推測されます。政府やそれに準ずる機関がそうした情報の集積機能を担うことで、各企業は正確な情報を踏まえた適切な対策や企業活動の実施が可能になると考えられ、企業の期待が大きいことがうかがえます。
次いで「セキュリティ・クリアランスの法制化」にも高い関心が示されました。セキュリティ・クリアランスの制度化は、内閣官房主幹の経済安全保障推進会議でも協議が進められている優先度の高いトピックです。セキュリティ・クリアランスが日本においても制度化されることは、海外の企業や研究機関、研究者等との共同研究実施の点からも重要です。日本の技術優位性の維持と先端技術研究を推進していくためにも、早期の制度化が期待されていることが示されました。
⑤台湾有事への対応
米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官は「台湾を巡る危機が2027年までに顕在化するおそれがある」*¹と警告しており、台湾有事発生への緊張感はますます高まっています。
台湾有事への備えについては、「有事下の事業継続判断」とした回答が最も多く、次いで「サプライチェーンの代替先の検討」「機密文書・データの流出防止対策」が続きました。
なお、「サプライチェーンの代替先の検討」は、製造業の回答では全体の回答を10ポイント上回っており、製造業において台湾有事を現実的に見据えたサプライチェーン対策が進行している様子がうかがえます。
⑥技術流出における懸念事項
「技術流出につながるようなどのようなことを懸念と感じているか」の質問では、「人材採用・人材流出」とする回答が最も多く、次いで「サイバー攻撃」「共同研究」「産業スパイ」の順でした。人材からの情報流出に関しては、研究者同士、組織同士の繋がりを把握し、リスクを可視化することが予防の第一歩です。技術流出には多様なリスクがあり、またその内容・方法は複雑化しています。組織横断で対策を検討・実行する必要がある領域と言えるでしょう。
⑦事業への影響
現在までに自社事業に出ている影響については、全体・製造業のみともに約2割が「影響あり」と回答しました。具体的な内容としては「サイバー攻撃を受け、現在も復旧対応中」や「輸出規制の強化に伴うサプライチェーンの見直しを実施中」、「顧客審査の重要性が増している」などが挙げられ、企業が対策を検討・実施している事項が一部企業では実際に発生していることが明らかとなりました。
また「顧客から非中国依存を要請されている」「中国での販売が減少している」「中国顧客との取引に慎重な対応が求められるようになった」など、中国が関連する取引についての回答も複数寄せられました。台湾有事への懸念や外為法の改正などが中国に関連する取引に従来以上の影響を及ぼしていることが見受けられると言えそうです。
⑧AIへの期待
経済安全保障対策に関するAIへの期待・ニーズについての質問では、「サプライチェーン管理」「サプライチェーンリスク調査」「サプライチェーンの把握、セキュリティ・クリアランス」などの回答があり、膨大なサプライチェーンの把握・管理にAIを活用したいというご要望が示されました。「日本の技術によるAI」という回答もあり、経済安全保障対策における情報セキュリティ意識の高まりがうかがえました。
本アンケート調査にご協力いただきました皆さまに、改めて御礼を申し上げます。FRONTEOは、経済安全保障における戦略的かつ迅速な意思決定を行うためのソリューションを提供し、皆さまの期待にお応えしてまいります。
*1 2019年2月12日 米上院軍事委員会「合衆国インド太平洋軍の体制に関する公聴会」での証言。