複雑化する世界情勢、規制動向、AIテクノロジーが担う役割を解説する本ブログにおいて、経済安全保障の文脈を読み解く上での重要キーワードを「基礎知識編」として随時紹介していきます。
第2回は安全保障上の懸念がある国への技術流出に深い関係がある「機微技術」について解説します。
中国が軍事技術の向上を狙って日本の研究機関に接近
2022年6月16日木曜日の日本経済新聞朝刊1面「中国軍関与、先端研究473件 日米欧と過去5年 兵器転用懸念」の記事において、中国の機微技術関連の共同研究論文に関してFRONTEOが関与したAI解析結果が紹介されました。ミサイルに応用できる「極超音速滑空体」、ステルス機に使う「電波吸収素材」、安価に兵器化できる「自律型無人航空機(UAV)」に関する文献データを以下の通り解析したところ、共著者の出身国トップ10には日本も含まれていることがわかりました*¹。
2014 年に研究開発費が EU を抜き、世界第 2 位になった中国*²はこの 10 年で大きく成長を遂げ、世界各国における中国との共同研究の可能性が一層広がることとなりました。そのような状況の中、日本において機微技術情報を扱う組織、あるいは機微技術開発に関わる組織にとって、各技術の「主な想定用途」と「実際の利用方法」のギャップが今後さらなる懸念点になることは間違いありません。しかし、どういった技術研究がどのようなバックグラウンドの中国人研究者と共同で行われ、中国軍とどのようなつながりがあるのかを、詳細な解析なしにうかがい知ることはほぼ不可能に近いのが実状です。
機微技術の範疇は幅広い
上記の記事以外でも最近よく耳にする「機微技術」とはいったいどういったものでしょうか?端的に述べると「軍事に用いられる可能性の高い技術」「武器製造などの技術のほか、軍事転用されやすい民生用の技術」を指します。具体的には、オーストラリア政府が以下のような技術を機微技術と分類しています*³。
安全保障上の懸念がある研究機関への技術流出は表玄関からも
軍事分野におけるデュアルユース(軍民両用)の重要性が高まる中で、安全保障上の懸念がある組織による調達活動の多様化・巧妙化が進んでいますが、日本政府も手をこまねいているわけではありません。外為法等で定める規制には、2種類(許可が必要な物の対象が定められている「リスト規制」と、リスト規制の対象外でも兵器開発などに用いられる可能性がある場合許可が必要となる「キャッチオール規制」)が存在し、「規制対象に該当する物の輸出や技術の提供を行う場合には、事前に経済産業大臣の許可」*⁴が求められることとなります。
しかし、規制対象になるかどうかを見抜くのが難しいパターンが多数存在します。以下は実際過去に起こったケースです。
機微技術の移転は「産業スパイやサイバー攻撃のような裏口を使った不法なものだけ」*⁷ではありません。プロジェクトでパートナーシップを組む組織や人材のバックグラウンドが把握されていなければ、安全保障上の懸念がある国や機関に「表玄関から堂々と機微技術を」*⁷に移転されてしまう可能性があることに留意する必要があるでしょう。