「経済安全保障法制の重要ポイントと企業が取るべき対応」 緊急開催!ロシアのウクライナ侵攻を 日本企業はどう捉えるべきか? <2022年4月14日開催>
2022年6月30日【経済安全保障 基礎知識編 Vol.2】「機微技術」とは?
2022年8月2日複雑化する世界情勢、規制動向、AIテクノロジーが担う役割を解説する本ブログにおいて、経済安全保障の文脈を読み解く上での重要キーワードを「基礎知識編」として随時紹介していきます。
第1回は経済安全保障に深くかかわりのある「制裁リスト」について解説します。
「規制」と一口に言ってもその手段は複数
米中の対立からサプライチェーンや貿易面で経済を切り離すデカップリング(分断)の動きや、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、各国が発動している経済制裁が、企業活動に大きな影響を与えつつあります。各国の「制裁リスト」に入っている組織や個人との関わりについては、すでに企業の皆様は注視し対応を検討されていることでしょう。この多種多様な「制裁リスト」を理解するにあたり、その前提として国家が発動するさまざまな「規制」の種類についてざっくりおさらいしたいと思います。
「輸出・輸入規制」は、様々な規制の中でも、とりわけ新しい措置が日増しに追加されている領域です。国・企業に対して、特定品目やその関連技術に関する輸出の規制や輸入差し止めを行うのが本来の趣旨ですが、昨今ではロシア及びベラルーシの軍事能力等の強化に資すると考えられる汎用品(半導体、コンピュータ、通信機器等の一般的な汎用品及び関連技術)の両国向け輸出等の禁止措置や、ロシアからの一部物品(アルコール飲料、木材、機械類・電気機械など)の輸入禁止措置などが顕著な例です*¹。
「資産凍結・送金規制」は、特定企業や個人に対する、自国内資産の凍結や送金禁止を定めるものです。ロシア連邦の特定銀行に対する日本政府の昨今の資産凍結措置などに加え、アメリカ政府が2021年にミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)を制裁対象とし、米国内の資産を凍結、米国民や米企業などとの取引も原則として禁じたことは記憶に新しいでしょう。日本の大手飲料メーカーも同企業が合弁先であったため、国際社会からの批判が強まりミャンマー事業から撤退する結果となりました。
「投資規制」、すなわち特定分野に対する外国人・企業による投資の禁止や規制の重要性を示すわかりやすいケースが、外為法をめぐる議論が喧しい昨今の日本のインフラ企業の例です。原子力発電所や防衛など基幹インフラに関わる企業が外資企業によって買収された場合を想定し懸念が示されています。
「物品・サービスの使用規制」は、安全保障上リスクがあると認めた製品・サービスに対する認証を禁止する規則ですが、その適用例としては、アメリカ政府が中国の通信機器企業の製品を対象とした法律を2021年11月に成立させ、アメリカ国内での販売を禁じたケースが典型的なものといえるでしょう。
「制裁リスト」は企業を政治的対立に巻き込み、ビジネスリスクとなる恐れ
では「制裁リスト」とはどういったものでしょうか?一言で述べるならば、貿易や事業取引に制限を掛けるべき相手を具体的な企業や個人レベルにまで絞り込み、「名指しで」登録した各国政府のリストと理解するのが良いでしょう。
「制裁リスト」の中でもとりわけ多くの日本企業にとって関心の高そうなものとして、米国製品の(再)輸出や日本国内における移転に関わりの深い、米国のエンティティ・リストと SDN リストに関する解説*²を紹介します。
◆エンティティ・リスト
◆SDNリスト
一方、上記の米国エンティティ・リストに対して、中国も対抗措置として「信頼できない実体リスト規定」を制定しました。これは、「中国企業との取引を『正常な市場取引の原則』に反して中断するなどした外国企業等を[中略]掲載し、中国への輸出入活動の禁止や、投資行為の制限等の制裁的措置を行うことを定め」*³、2020年9月に公布、施行されたものです。中国商務部は「『本制度』は特定の国やエンティティーを対象として想定しているものではない」*³と主張しており、「制裁リスト」とイコールではない位置づけではあります。ただし「米国のエンティティ・リストその他の規制・制裁」*⁴を考慮すべき日本企業にとっては、「米中の二者択一」*⁴を求められることと同義です。「中国と経済取引を行う外国企業を、踏み絵、股裂き局面に直面させることになる」*⁴可能性が顕在化したことは記憶に新しい出来事です。
米中対立に限らず、複数の政府間において対立する規制・制裁リストが制定され、特定の国家の政治的立場への同調が求められた際に、事業リスクを軽減する最適な対応を見出すことが企業にとっての生命線と言えるでしょう。
【各国の制裁リストの例】※制裁リストの全てを網羅するものではありません
第1回は経済安全保障に深くかかわりのある「制裁リスト」について解説します。
「規制」と一口に言ってもその手段は複数
米中の対立からサプライチェーンや貿易面で経済を切り離すデカップリング(分断)の動きや、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、各国が発動している経済制裁が、企業活動に大きな影響を与えつつあります。各国の「制裁リスト」に入っている組織や個人との関わりについては、すでに企業の皆様は注視し対応を検討されていることでしょう。この多種多様な「制裁リスト」を理解するにあたり、その前提として国家が発動するさまざまな「規制」の種類についてざっくりおさらいしたいと思います。
「輸出・輸入規制」は、様々な規制の中でも、とりわけ新しい措置が日増しに追加されている領域です。国・企業に対して、特定品目やその関連技術に関する輸出の規制や輸入差し止めを行うのが本来の趣旨ですが、昨今ではロシア及びベラルーシの軍事能力等の強化に資すると考えられる汎用品(半導体、コンピュータ、通信機器等の一般的な汎用品及び関連技術)の両国向け輸出等の禁止措置や、ロシアからの一部物品(アルコール飲料、木材、機械類・電気機械など)の輸入禁止措置などが顕著な例です*¹。
「資産凍結・送金規制」は、特定企業や個人に対する、自国内資産の凍結や送金禁止を定めるものです。ロシア連邦の特定銀行に対する日本政府の昨今の資産凍結措置などに加え、アメリカ政府が2021年にミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)を制裁対象とし、米国内の資産を凍結、米国民や米企業などとの取引も原則として禁じたことは記憶に新しいでしょう。日本の大手飲料メーカーも同企業が合弁先であったため、国際社会からの批判が強まりミャンマー事業から撤退する結果となりました。
「投資規制」、すなわち特定分野に対する外国人・企業による投資の禁止や規制の重要性を示すわかりやすいケースが、外為法をめぐる議論が喧しい昨今の日本のインフラ企業の例です。原子力発電所や防衛など基幹インフラに関わる企業が外資企業によって買収された場合を想定し懸念が示されています。
「物品・サービスの使用規制」は、安全保障上リスクがあると認めた製品・サービスに対する認証を禁止する規則ですが、その適用例としては、アメリカ政府が中国の通信機器企業の製品を対象とした法律を2021年11月に成立させ、アメリカ国内での販売を禁じたケースが典型的なものといえるでしょう。
「制裁リスト」は企業を政治的対立に巻き込み、ビジネスリスクとなる恐れ
では「制裁リスト」とはどういったものでしょうか?一言で述べるならば、貿易や事業取引に制限を掛けるべき相手を具体的な企業や個人レベルにまで絞り込み、「名指しで」登録した各国政府のリストと理解するのが良いでしょう。
「制裁リスト」の中でもとりわけ多くの日本企業にとって関心の高そうなものとして、米国製品の(再)輸出や日本国内における移転に関わりの深い、米国のエンティティ・リストと SDN リストに関する解説*²を紹介します。
◆エンティティ・リスト
- 掲載対象:「…米国の国家安全保障または外交政策上の利益に反する活動に関与した…または関与する重大なリスクがある…事業体、および当該事業体のために活動する者」(EAR§744.11(b)より)
- 規制内容:掲載者との取引については、貨物・技術輸出にあたっては EAR99 に至るまでほとんどの品目で輸出許可申請を要し、かつ原則不許可となる
◆SDNリスト
- 掲載対象:「大統領が国家非常事態宣言をした場合に指定した「国家の安全保障・外交や経済を脅かすものと指定した国や法人、自然人など」(IEEPA=US Code Title 50 CHAPTER 35 § 1701-2 より)
- 規制内容:外国為替ほか金融機関の関与する諸取引・通貨や有価証券の輸出入・資産取引において、掲載者による取引を制限又は禁止(凍結)
一方、上記の米国エンティティ・リストに対して、中国も対抗措置として「信頼できない実体リスト規定」を制定しました。これは、「中国企業との取引を『正常な市場取引の原則』に反して中断するなどした外国企業等を[中略]掲載し、中国への輸出入活動の禁止や、投資行為の制限等の制裁的措置を行うことを定め」*³、2020年9月に公布、施行されたものです。中国商務部は「『本制度』は特定の国やエンティティーを対象として想定しているものではない」*³と主張しており、「制裁リスト」とイコールではない位置づけではあります。ただし「米国のエンティティ・リストその他の規制・制裁」*⁴を考慮すべき日本企業にとっては、「米中の二者択一」*⁴を求められることと同義です。「中国と経済取引を行う外国企業を、踏み絵、股裂き局面に直面させることになる」*⁴可能性が顕在化したことは記憶に新しい出来事です。
米中対立に限らず、複数の政府間において対立する規制・制裁リストが制定され、特定の国家の政治的立場への同調が求められた際に、事業リスクを軽減する最適な対応を見出すことが企業にとっての生命線と言えるでしょう。
【各国の制裁リストの例】※制裁リストの全てを網羅するものではありません
- Entity List(アメリカ)
- Specially Designated Nationals And Blocked Persons List (SDN) Human Readable Lists (アメリカ)
- Financial sanctions targets: list of all asset freeze targets (イギリス)
- EU Sanctions Map (EU)
*¹令和4年5月13日 経済産業省「外国為替及び外国貿易法に基づく輸出貿易管理令等の改正について(ロシア向け先端的な物品等の輸出等禁止措置)」
*²2022年1月6日 中曽根康弘世界平和研究所 「これからの中国との経済関係(1)-高まる安全保障上のリスク」
*³2021年12月 日本貿易振興機構(ジェトロ)上海事務所 海外調査部「『信頼できないエンティティー・リスト』制度の概要」
*⁴2020年9月23日 CISTEC 事務局「中国における『信頼できないエンティティ・リスト』、『輸出禁止・輸出制限技術リスト』の施行について」
*²2022年1月6日 中曽根康弘世界平和研究所 「これからの中国との経済関係(1)-高まる安全保障上のリスク」
*³2021年12月 日本貿易振興機構(ジェトロ)上海事務所 海外調査部「『信頼できないエンティティー・リスト』制度の概要」
*⁴2020年9月23日 CISTEC 事務局「中国における『信頼できないエンティティ・リスト』、『輸出禁止・輸出制限技術リスト』の施行について」