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2022年12月6日複雑化する世界情勢、規制動向、AIテクノロジーが担う役割を解説する本ブログにおいて、経済安全保障の文脈を読み解く上での重要キーワードを「基礎知識編」として随時紹介していきます。
第7回は経済安全保障に深くかかわりのある「外為法」について解説します。
外為法は国際情勢に応じてアップデートを繰り返してきた
原子力や防衛など、経済安全保障と密接に関わる技術や事業を持つ日本企業について、外国資本による買収の可能性を報じるニュースを、昨今、頻繁に目にします。「国の安全等を損なうおそれがある投資に適切に対応」*¹することを狙いの一つとする「外為法」がどのように日本企業の事業活動に影響を与えるのかについて、今回の基礎知識編にて解説します。
外為法の正式名称は「外国為替及び外国貿易法」です。その第一条では、目的として「対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与する」*²ことが示されています。外為法は、第二次世界大戦後の東西冷戦時代には旧共産圏諸国への輸出を厳しく取り締まることが主眼でしたが、近年では旧共産圏に限らず、安全保障上の監視強化が望ましい分野に関して輸出を許可制にするなど、社会・経済的背景や国際情勢に応じて様々な改正がなされてきました。
外為法の「コア業種」は拡大の一途を辿る
特に最近、日本企業に大きな影響を与えたのは、2019年11月に成立し、2020年5月に施行された改正外為法です。主な改正点のうち、事前届出を必要とする指定業種のうち、国の安全等を損なうおそれの大きい業種が『コア業種』として分類され、武器・航空機・宇宙関連・原子力・軍事転⽤可能な汎⽤品・サイバーセキュリティ関連・電⼒業・ガス業・通信業・上⽔道業・鉄道業・⽯油業*¹がその対象となりました。全1,465種のうち155業種を「指定業種」に指定し、また、外国投資家に求める日本政府への事前届出が必要なケースを10%以上の出資と定めていましたが、「安全保障等の観点から10%では緩すぎる」といった意見が出たため、基準見直しの議論が行われ*³、事前届け出基準が10%から1%に引き下げられました。*¹コア業種については、2020年に感染症関連の医薬品や医療機器*⁴、2021年にレアアース等の重要鉱物資源に係る業種も加えられ*⁴、拡大の一途を辿っています。
みなし輸出の厳格化には功罪が伴う
2021年11月に省令・通達の公布・発表、2022年5月に施行・適用がなされた改正により、「みなし輸出管理」の対象が拡大されたことは記憶に新しいのではないでしょうか。我が国では、外為法に基づき、安全保障の観点から軍事転⽤可能な機微技術の提供について以下の場合を管理しています。②の管理を⼀般的に「みなし輸出」といいます。
①国境を越える技術提供(ボーダー管理)
⓶国内外における居住者から⾮居住者に対する提供(「みなし輸出」管理)*⁵
さらに「国内にいる者から国外にいる者に対する技術提供のみならず、国内でなされる技術提供であっても、一度技術情報が移転してしまえば、その後、技術の提供を受けた者が出国することで、結果として輸出規制の対象となる技術情報が国外に移転しうる」*⁶ことなどが懸念されており、輸出管理の厳格化が政府により推進されました。
本改正においては、新たに「みなし輸出」管理の対象となる居住者の類型が以下の通り定められ、以下に当てはまる居住者に対しては、特定の技術提供を行う際に経済産業大臣の許可を取る必要があることが明確化されました*⁷。
類型① 契約に基づき、外国政府・大学などの支配下にある者への提供
類型② 経済的利益に基づき、外国政府などの実質的な支配下にある者への提供
類型③ 上記の他、 国内において外国政府などの指示の下で行動する者への提供
出典:経済産業省*⁷
本改正において、日本企業に特に密接な関係があると思われるのが類型①であり、具体的には、以下*⁶のような例が想定されます。
- 日本企業の従業員が、同社が 50%以上の議決権を保有する海外の子会社の役職員のポジションを兼任している場合
- 海外企業と共同プロジェクトを実施するために、当該海外企業から出向者を受け入れ、プロジェクト実施の過程で出向者に対しても情報共有がされる場合
- 自社においては、一般的に従業員の兼職を認めているところ、ある従業員の兼職先が外国法人である場合、又は外国法人との間の業務委託契約に基づいて兼職業務を行っている場合
また、学術界においても「研究開発成果の大量破壊兵器等への転用防止、研究の健全性・公正性(「研究インテグリティ」)の自律的な確保といった観点から、科学技術情報の流出対策に取り組む」*⁸ことが求められており、現場では、研究者への啓発や審査業務が早急に進められている状況です。
上記に留まらず、刻一刻と改正がなされる外為法への適切な対応が肝要であることは言わずもがなです。一方、海外からの投資や研究現場における規制強化は、安全保障上のメリットがありながらも、対内投資の減少、国際共同研究や質の高い研究の停滞といったリスクを伴うことは否めません。経済安全保障と管理体制整備のバランスをとることは多くの組織にとって重要な課題といえるでしょう。
*¹2020年4月24日 財務省「外国為替及び外国貿易法の関連政省令・告⽰改正について」
*²e-Gov法令検索 執行日:2022年6月17日「外国為替及び外国貿易法」
*³2020年3月14日 Sustainable Japan 「【日本】改正外為法が施行。2102社を海外法人からの出資規制対象に指定。6月7日から適用」
*⁴2021年11月16日 財務省国際局「対内直接投資審査制度について」
*⁵2021年11月 経済産業省貿易管理部 「経産省からのご協⼒のお願い『みなし輸出』管理の明確化について」
*⁶2022年3月30日 ベーカー&マッケンジー法律事務所 板橋 加奈、松本 泉、篠崎 歩「『みなし輸出』管理の運用明確化による輸出規制の適用範囲の実質的拡大」
*⁷2021年11月 経済産業省貿易管理部「『みなし輸出』管理の明確化について」
*⁸2020年7月17日 内閣府「統合イノベーション戦略 2020」