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2022年9月20日複雑化する世界情勢、規制動向、AIテクノロジーが担う役割を解説する本ブログにおいて、経済安全保障の文脈を読み解く上での重要キーワードを「基礎知識編」として随時紹介していきます。
第4回は経済安全保障、とりわけ多国籍企業の組織編成に大きな影響を持つ「デカップリング」について解説します。
米国のトランプ政権下において米中対立の様相が浮き彫りになりましたが、バイデン政権誕生後も対立は継続し長期化が避けられない見通しです。経済面においては、貿易摩擦を皮切りとして技術覇権争いにも発展し、両国が各々経済安全保障を念頭に、輸出管理制度や外国投資規制などを強化しています。このような状況において、国境を越えた自由な経済活動を制限し、対立国を意識して「経済やサプライチェーンのブロック化」*¹を推進することを「デカップリング」と呼んでいます。
デカップリングを推進する中、米国は同盟国などに対しても、中国への情報・技術漏えい阻止を強く要請してきました。日本は2019年に外資による投資などの審査を厳格化する形で外為法を改正しました。これに続く形で、経済安全保障推進法が5月に成立しています。法施行の段階では、「中国などが想定される『安保上の懸念がある国』が関わるサプライチェーンや製品輸出、サービスをどのように管理し、外していくか」*²について、企業はより精緻な判断を下すことが求められるでしょう。
デカップリングは対社外・対社内双方を考慮すべき
では、「安保上の懸念がある国」とのデカップリングをどのようにグローバル企業は推進していけばよいでしょうか?デカップリングは対社外・対社内双方を考慮に入れることが賢明であり、リスクに応じた打ち手を講ずる必要があります。企業の採るべきアプローチとしては、例えば以下のようなものがあるでしょう。
- サプライチェーンの解析:アライアンス・合弁先の株主・債権者に懸念国の金融機関や企業が存在していないかどうかは、M&Aデューデリジェンス、また米国当局への対応における基本的な備えです。懸念国・組織とのつながりや、特定の企業への過度な依存など、サプライチェーンの安全性・健全性を把握するために、AIを活用した解析は有用です。
- 先端技術開発に関わる状況の把握:重要先端技術の開発促進に関して官民が協力し、技術的優位性を確保するとともに技術情報や成果を管理することは、経済安全保障推進法の4本柱の1つとなっています。経済全体の完全なデカップリングは現実的でない中、「部分的デカップリング」を行う必要がある最優先分野の一つが先端技術開発です。AIによる論文や特許の解析にもとづいて、機微技術との関連性の強さや、共同研究を通じた懸念組織との繋がりの可能性を把握できれば、複雑な経営判断を行う上での大きな助けとなるだけでなく、企業努力によって日本の戦略的不可欠性を高めることにもつながるでしょう。
- 新興技術情報の管理厳格化:米中両国からの制裁リスクが高まる、両国の新興技術情報を厳格に管理するためには、「最もリスクを低減できる組織構造を選択し、残ってしまうリスクは運営方法を工夫」*³するのが望ましいでしょう。「善管注意義務違反を問われないため」*³にも運用だけに頼らないことは重要です。
- 取締役と執行役員の兼務解消:執行役員は「事業成長に不可欠な研究開発やM&A、アライアンスに際して、技術優位を理解すること」*³が必要となります。したがって、取締役は「新興技術情報へのアクセスが回避できないことが多い」*³ため、技術流出リスクを低減させるためにも、「米中をまたがって情報を保有するリスクがある役職の兼務を避ける」*³ことが求められる時代になったといえます。
*²2022年6月8日 時事通信「米中切り離し論、十数年で激変 経済安保法が成立、備える企業【けいざい百景】」
*³2021年9月16日 國分俊史「経営戦略と経済安保リスク」